人から非難されないか気にしている

『他人なんか関係ない、自分がやりたいようにやるんだって言うくせに、
 それが非難されないか、不快感を持たれないか、
 周りにどう思われてしまうか、気にしていることに気づくいちゃってさ」

 

隣のチームのリーダーの早川さんは何気なくそんなことを言い出した。

早川さんでもそうなんですか?とたずねる。

 

「自覚してなかったんだけどね。やっぱり他人に非難されるのは嫌みたいだ。
 たまにいるじゃない?そういうの気にしない図太い人。
 ああいう人も、そう見えて、裏では気にしているのかね」

 

どうなんですかね。と答える。

「そうなら多少、気が楽だけどね」と早川さんは苦笑していた。

道歩くときの通行人が邪魔だと思うけど地方はどうなんだろう

大山さんと会社の外にランチに行った時、
人混みの歩道をすり抜けるように歩いていた。
赤信号で立ち止まったときに大山さんが言った。

「都会ってさ、人多いから道歩くときって
 前から来る人にぶつからないようにとか、
 逆にゆっくり目の前歩いている人の横すりぬけたりとか、
 たかだか街を歩くだけでいろいろ気を使ってるじゃん?」

赤信号の交差点には徐々に人だかりができていく。

「ぶっちゃけ邪魔だなーって思いながら歩いているときあるんだけどさ。
 地味にストレス感じるわけよ」

大山さんは続ける。

「でさ、この前出張で地方に行ったんだけど、
 そこは、その地域では都会だから、歩道も整備されてて都会みたいなんだけど、
 歩いている人が全然いないのな。
 だからスイスイ歩けちゃって」

信号が青に変わり、一斉にみんなが歩き出す。

「地方の人って道歩くのにストレス感じたりするのかなー。
 道いっぱいに広がって歩いている人を追い抜かせずにイライラすることってないと思うんだよね。
 あんまり気づかないけど、
 そういう日常のちょっとした差のせいで都会の生活って疲れんだろうなーって思ったよ」

歩いていると真横の店のドアが開き、人が飛び出てきた。
道路を横切りたかったのだろう、ちょうど直進していた私達にぶつかった。
そして、その人はこちらを見ることも一言いうこともなく、そのまま雑踏に消えていった。

ひとつも進まない毎日

毎日仕事に行き、家に帰る。
子どもの面倒を見る。
妻とテレビを見ながら話す。

いろいろなものは移り変わっている。
だけど、自分の中で何かが進んでいるという実感が無いんだよ。
ひとつも進まない毎日をただただ過ごしている感覚で。

毎日やっている仕事。
もちろんこの中で進んでいっているものはある。
プロジェクトは進み、成否はあれど結果は出ている。
その中で自分も成長したり、新たな役割を任されたりする。

それでも、毎日、一歩も進んでいっていないと思えてしまうんだ。

 

金沢は悲しそうな顔をしながらうつむいていた。
私は空いたグラスにビールを注いでやることしかできなかった。

メンヘラの女の子を引き寄せる男

「メンヘラの子と付き合う男って、そういう人を引き寄せるんですよね」

山下君が苦笑いしながら話す。

 

「世話焼きが多いですよね。

 あと、この人のこと、自分だけはわかってあげるんだ、みたいのに酔ってる傾向があるかも。

 でもって、その人が恋愛経験少ないと、ほら、メンヘラの人って何故か可愛い子が多いってのと、

 向こうからずばずば近寄ってくるってのがあって、男側もまんざらじゃなかったりするんですよね」

 

「だから、そういう自分に気づくまでは何度もメンヘラな子と付き合ったりする。

 メンヘラの子を引き寄せなくなるようにするのは簡単なんです。

 自分が変わればいい。残酷なことを言うと、そういう子を見ても、

 俺がなんとかしてやるって思わなくなれば自然と近寄ってこなくなります」

付き合い始めはいつから自分を出す?

古都子が新しい彼氏ができたのに浮かない顔してた。
話を聞くと「いつ頃から自分を出せばいいかわからなくって」と言う。
新しい彼氏は合コンで知り合ったこともあり、
まだあまりお互いの素を知らない状態らしい。

 

「話をしてるときに自分の考えを言いたくなることもあるんだけど、
 もし言って、引かれたりしたらどうしようと思って」

 

他にも休みの日にやってる趣味とか、普段実はだらしないこととかがそうらしく。

 

「いつかは言わないとって思うけど、まだ言うタイミングじゃない気がする。
 もうちょっとお互いのことがわかってから徐々に出したいんだけど、
 でも、いつなんだろう。少し我慢するのも気が重くなってきた」

 

古都子がため息をつく。
つまり、どうせいつかわかっちゃうことなのはわかっているが、
できれば引かれず、受け止められるタイミングで伝えたいのだという。

 

ふと、そう言えば沙織はどうなんだろうと思った。
あの子屈託が無い性格だから「自分の性格を出すタイミング」なんて考えてもなさそう。

 

ためしに聞いてみたら
「そんなの最初から全開だよー」と大笑いしてた。
「だって、どうせいつかわかっちゃうことなんだし、いつ言っても一緒でしょ?」と言う。

 

沙織は全く悩まず、古都子は悩んでいる。
それぞれのキャラがあって、性格があっての話だから、どちらが正解というものではないけれど。
とりあえず古都子には、自然にまかせてあんまり考え過ぎないようにした方がいいよとメッセージを打っておいた。
言ってよさそうだなと思う瞬間があれば自分を出せばいいし、
言いたくてどうしようもなくなったら自分を出せばいいし。
そういうふうに思うよ、と。

ベンチャーが大企業になってもなぜ初期メンバーは残るのか

貞友との話のつづき。
ベンチャーが大企業になると元いた人が辞めていく理由はわかった。
その割には初期メンバーって結構な確率で残っているような。

ビールを飲もうとしてた貞友はその手を止めて答える。

「ああ、そりゃ簡単だ。つまり居心地がいいんだ。
 なんせ自分たちが働きやすいように作ってきた会社だからね」

「そして、一番最初からいれば一番この会社のことを知っている。
 歴史も、風土も、社員も。
 自分の会社の流儀をたいていの人より知っているってのは、
 意外と自分を萎縮させないものだ」