やる気が出ないとか

隣のチームのリーダーの早川さんと、同僚の高橋くんとランチに出かけた。

早川さんはご飯を食べながら

「ああー、休み明けで全然やる気出ないわー」

と何度も言っていた。

 

5度目の「やる気出ない」という話の後、

高橋くんは「そういうの、あんまり言わない方がいいっすよ」と言った。

早川さんは「いや、ま、ここだけ。ここだけの話。ちゃんとやるよー」と誤魔化してた。

 

言いたい気持ちはわかるけど、

そうだね、あまり言うことではないよね。

大事な人ほど本当のことが言えない

大山さんはグループリーダーだ。
部下には厳しいこともズバズバ言うし、
自分より上の立場の人にもズバズバ言う。

「言えねぇんだよなー」と大山さんはビール片手にぼやいた。
新年会の席で新婚1年目の奥さんの話をしていたときだった。
一緒に暮らしてればカチンとくることも、
うんざりすることもあると言っていた。
でも、それを奥さんに言えないらしい。

「奥さん怖いんですか?」
「いや、そんなことはないよ」

追加で注文したおでんがやってきた。
「まあ、大事な人なわけですよ。奥さん。
 ガツンと言ったところでその関係性が壊れるわけじゃないんだけど、
 なんかこう嫌な思いをさせたくないって思っちゃうところもあって、
 言いたいことを言うか、嫌な思いをさせるかがせめぎ合った結果、言わないと」

はんぺんを取りながら大山さんは「本当は言いたいんだよ?」と補足してた。

コミュニケーションテクニック「共感」

コミュニケーション教室の臼井先生はさまざまな受け取り方を教えてくれるから好きだ。
どうしてこういうところの先生達は納得できない答えを納得できない自分がよくないように言うのだろう。

「相手の話には共感を示してください。示すことが大事ですよ。
 うなずく、そうそうと言う、共感しているんだってことを表現してください。
 共感しててもそれを表さないと伝わらないですよ」

「でも先生、相手の話に共感できないことってあるじゃないですか。
 あります。
 共感できない話に共感することはないです。
 じゃあどうするか。
 共感できないって伝えましょう。そこからコミュニケーションは始まっていくんです」

「ただ、共感まではできなくても同意できるところはないか、と言われるとどうですか?
 同意できなくても理解できるところはないか、と言われるとどうですか?
 共感、同意、理解。相手との距離感が少しずつ離れますよね。
 でも、その分、そこまでならOKってなったりしません?
 100%は無理でも30%までなら同じ立場を取れる、というような。
 そうしたらその部分までは伝えてあげてください」

共感は伝える。うん、チクマ理解した!

コミュニケーションテクニック「傾聴」

コミュニケーション教室の臼井先生の話し方はわざとらしくなくて好きだ。
どうしてこういうところの先生達は体全身を使ってねっとりと話す人が多いんだろう。

「人とうまく会話ができない、コミュニケーションが取れないという人の多くは、
 自分が話すことを一生懸命に考えていたりします。
 あるいは会話はキャッチボールだということに囚われて、
 どう返事しようかと一生懸命考えていたりします。
 そうやって考えている間、相手の話は上の空です」

「まずは聞いてください。人の話は最後まで聞いてあげてください。
 会話を続けるのはその次です。
 じっくり耳を傾けてください。聴いてください。これを傾聴と言います」

臼井先生はホワイトボードに「傾聴」と書いた。

「話を最後まで聞いて、よくわからない部分があれば軽く質問して、
 新たな情報を引き出してみてください。
 相手が何を伝えたいのか100%理解しようとしてみてください」

「たいていの人はね、話を聞いてもらうのは好きなはずです。私もね。
 ちゃんと聞く。最後まで聞く。そこからコミュニケーションは始まります」

傾聴。うん。チクマわかった!

年末年始は勉強しようと自然と思っていた

前からちょっとわかってないなと思っていた会計について勉強していたら
年上の従兄弟がやってきて「勉強しているのか?」と聞いてきた。
そうだと答えたら「何も正月にそんなことしなくても」と言われたので、
正月だからやるのだと教えてあげた。

従兄弟には久しぶりに会ったので色々教えてもらおうと思ってたのに、
さっきの昼ごはんのときの彼の話を聞いて正直がっかりしていた。
10歳年上の彼は、社会人としても先輩になるわけで、
社会人1年目の自分から見れば学ぶことは多いはずだったのに、
仕事の話題を振られた従兄弟は
「忙しい」
「あんまりおもしろくない」
「給料もあがらなくて」
「景気が良いといっても我々には関係ないですからねぇ」
「政治が」
「上司が使えなくて」
なんて話をしていた。みんなは「大変ねぇ」「仕事ってそういうもんよ」なんて相槌打ってた。

あまりにも生産性の無い話に辟易して、
何か自分がアドバイスできることがあるかもと思ってしまい、
今、具体的に何やっているの?詳しく知りたい、と聞いたら
「うーん、社内調整っていうのかな」「他にはキャンペーンの外注とか」と
要領得ないことを言い出す始末。
自分のやっている仕事をしっかり説明できないってどうなんだ。
これ以上は聞いても無駄だと思って部屋に戻ってきた。

 

正直よくわからない。あんなスタンスで仕事してて楽しいのか。
やっぱやるからには会社のトップ、業界のトップを目指したいって自分は当たり前のように思ってた。
そうしたら自分なんてまだまだだし、もっと成長しないとって普通に意識するし、
年末年始勉強するのなんて自然なことだ。

メディアに取り上げられるようなビジネスマンだったら、
今この瞬間も息を吸う用に仕事をしているはず。
もっとがむしゃらにならないと。
死ぬ気で仕事しないとただの一般人で終わってしまう。
まあ、そういう意味では従兄弟は反面教師的には良かったのかもな。

年末年始こそ勉強しないと

叔父の家に顔を出す。
正月の特番を親戚一同で見ながらダベっている。
ゆったりと落ち着く心地よい瞬間だ。

2階から年下の従兄弟が降りてきた。
冷蔵庫からジュースを取り出すと、また2階に上がっていった。
ふと、何をやっているのか、
もしゲームをやっているなら一緒にやってやろうかと思い、
2階の彼の部屋にノックして入る。

本を読んでいた。
傍らには何冊か積まれている。
小難しいタイトルばかり、経済、英語、技術書…、もはや何の本なのか完全にはわからない。

勉強しているのかと聞いたら、
「勉強兼仕事」と返された。
何も正月にそんなことしなくてもと言ったら、
読んでいた本から目線をこちらに向け、少し驚いたような顔で
「正月だからやるんじゃん」と言い返された。

 

「年末年始、みんなが休んでいる間に勉強や仕事をすれば一歩先に進むことができるし、
 まとまった時間になるから、常々勉強しておきたかったことをしてしまうチャンスでもあるし、
 ここで稼いだ分で1年間戦っていくことができる。
 まあ、単純に誰かに邪魔されることもないから気分がいいってのもあるけどね」

 

ほどほどになと言い、邪魔になりそうだったので部屋を後にする。
どうせ自分は「休んでいるみんな」の1人だ。
年末年始の数日程度で何が変わるわけもない。
むしろしっかり休んだ方が1年間戦っていく英気を養えるってもんだろ。

1階のみんながいる部屋に戻り、みかんを食べながらテレビを見る。
この数日で見慣れたCMが、また流れていた。

実家には今、親だけが住み、暮らしている。
彼ら2人の日々を直接見ることはできない。だからだろうか、
どんな暮らしを送っているのか気になるときがある。

2人っきりになって寂しくないだろうか。
それとも楽しいだろうか。
何を話しているのだろうか。
何も話していないのだろうか。

自分のいない彼らの毎日は、どう過ぎていっているのだろうか。