大人と興味

「大人って、いろんなものにどんどんこだわりがなくなっていくよね。

 その割に、今自分が持っているものにはどんどんこだわっていくよね。ていうか固執?

 よく言えば余計な好奇心が無くなって、

 本当に自分にとって大切なものを大事にするようになるってことだし、

 悪く言えば年取って情熱失って過去のよりどころにすがっているだけとも言える

 何にせよ、そやって自分の興味が絞られていってるときに、大人になったなぁって思う」

マチコと飲んでたときに出た話。

今週のお題「おとな」

誰よりも知っている not equal 仕事ができる

3年目の町田くんが部長に質問されてよどみなく答えている。

「はい、それはあそことここに話がつけば準備できます」

「いや、それは難しいです。なぜならこちらを先に動かさないと物理的に不可能だからです」

部内でも彼が現場担当なので詳しい。

部内で誰よりも知っている、部長よりも知っている。

部長の役にも立っているという自負もあるのだろう。

 

町田くんは以前、「仕事ってのはさー」と持論を得意げに展開していた。

彼なりに手応えを感じているし、

自分は仕事ができるという自負もあるのだろう。

 

一方で彼の上司達からは彼の評価は今ひとつだ。

悪くはない。しかし良くもないという意味で今ひとつだ。

業務知識に詳しいことは認めている。

しかしそれを元に応用をしない、わかりやすく言うと、

言われたとおり、昔から決まりきったことをその通りやるばかりで、

新しいことを提案したり、改善したりという動きがないのだという。

 

「今はいい。でも今のままではだめだ」

誰かが言っていたことを思い出した。

町田くんは引き続き部長に説明をしている。

目を輝かせながら。自分は仕事できるぞと充実感を感じながら。

彼がゴールだと思って到達した地点が、全然ゴールではないと気づくのはいつのことだろうか。

夫婦は言わないと

会社の休憩所でコーヒーを飲んでいたら大山さんも休憩に来た。
大山さんは、この前奥さんに不満があっても、
大事な人ほど本当のことが言えないとぼやいていた。

その後どうなんですか?と聞いてみる。
「いやー、それがねー」と大山さんはコーヒーを注ぎながら話しだす。
「あの後、結局言ったのよ。お前のこういうところが俺はイラッとする、直して欲しいって」

コーヒーを飲み、こちらを向いて大山さんは続ける。
「そしたらその後、大げんか。向こうは向こうで俺に言いたいことがあったらしくってさ。
 ただまあ、言い合っててもしょうがないから、
 1つ1つ、これはどう思ってる?こっちはこうしてほしいんだがどう?って
 お互い言いたかったことを整理してさ。
 結果的に俺の方が決めさせられた約束多い気がする」

大山さんは苦笑い。

「でも言ってよかったなーって思う。
 こっちが思ってたこと向こうがわかってくれたし、
 向こうが考えてたことを俺が知ることもできたし。
 言わなければずっとボタンの掛け違いをしてたんだろうなと」
「やっぱね、言わなきゃ伝わらない。
 夫婦だからって察しろ、気づけ、は無茶だわ。
 もちろん、険悪になるのは嫌なんだけど大事な人ほど向き合わないとダメだねぇ」

そう言って、自分に言い聞かせるようにうなずく。

「まー、その後なんだかんだ、向こうが優しい気がするしね。
 喧嘩しても次につなげようとしてくれる人でよかったと思うよ」

大山さんは照れくさそうに笑ってた。

株で儲けたお金を使う

15時に株式市場が閉まり、1日が終わる。
その後、為替やら外国株式やらPTSやらいじろうと思えばやることはあるけど、
そもそもシステムトレード主体でやってるので、
わざわざ博打をする必要があるわけじゃない。

ジャケットを着て、電車に乗って都心に向かう。
昨日、寝る前に思ったのだ。
もっと稼いだお金を使おうと。
今までは元手を増やしたいために、利益が出てもそれは次回の投資資金になっていた。
元々物欲は少ない方だが、物を買い、楽しい気分になった方が、自分の毎日に意味が出てくる気がする。

いくら使おう?
月の利益のさらに1%、とかだったら元手を増やしつつ使えるかな。
…いかん。そんな額じゃ大したものを買えない。
月100万ぐらい使ったっていいんだからもっとどーんと行かねば。

電車を降り、百貨店に入る。
そうか、こういうところの服は買い放題なんだな。
靴とかいいな。
成金っぽいのはいやだが、きちんとした上品なみなりをしてみたい。
ファッションにはうといから、雑誌買って勉強してみようかな。

最初、自分は物欲がないから何見ても欲しくなかったらどうしようと思っていたけど、
案外いろんなものが欲しくなってきた。
ちょうど財布コーナーがあったので、手始めに買うことにした。
値段を気にせず、自分が好きなデザイン、色で探していく。
自分が1番欲しいものを真剣に考えながら見ていく。

ああ、楽しいな、これ。
トレードで儲けていける生活を送れて本当によかったな。
じんわりとそんなことを思っていた。

常勝システムトレードがもたらしたもの

午前9時をまわると東京株式市場が開き、取引がスタートする。
めまぐるしく変わる株価を見ながら(ほとんど動きが無いときもある。そういうときは本当に退屈だ)、
株を売り買いしていく。いわゆるデイトレードである。

ただ。

自分にとってデイトレードはただのお遊びだ。
専業トレーダーだが、デイトレードでは生計を立てていない。
本命は自分が開発したシステムトレードの手法で、
あらかじめ決めた銘柄が決まった株価に達したら買い、決まった株価に達したら売る、
その値段は過去のデータを元にプログラムがはじき出す、というものだ。

あれこれ考えて何年もかけて作ってきたが、
あるとき、このプログラムがハマった。
以来、このプログラムの言うとおり売り買いしているだけで、
年20%の利益が出るようになった。
仮に1億円の元手があれば、1年間で2000万円増やせることになる。
3000万の元手でも、600万だ。

システムトレードのプログラムが完成してから数年、
会社員を続けながら元手を増やし、また、株で稼いだ利益は全て翌年の元手につぎ込み、
ついに年間の利益だけで、かなり優雅な暮らしができるぐらいの元手ができた。
会社をやめ、専業トレーダーになってまた数年が経ち、
資産はどんどん増えている。

そう、お金には困らなくなったのだ。
自分の人生からお金という制約条件が消えた。
だからデイトレードで稼ぐ必要もない。
しかも自分が開発したシステムトレードは、
毎朝数分、プログラムが算出した株価で注文しておくだけなので、時間もかからない。

なのだが。

結局1日中、パソコンの前にすわって株価を眺めていることが多い。
単に眺めているだけでは退屈なのでデイトレードをしている。
お金があり、時間もできた、はずなのに、
なぜ自分はこんなぼんやりとした毎日を過ごしているんだろう、と最近良く思う。

9時5分に買った銘柄が値上がりしてきたので売った。
18000円儲かった。
昼ごはんは今日も近所のコンビニ弁当の予定だ。

トレーダーの朝

朝は8時に起きる。寝坊することがあっても9時には起きる。
PCを立ち上げ、3枚のモニターの電源を入れる。
証券会社のアプリ、株価情報がわかるサイトを次々開き、
モニターの指定位置にそれぞれ配置していく。

昨日のダウと先物の値、ニュース一覧をざっと見る。
ここ最近で予定されている発表をメモしたものを確認し、
日経平均と追っかけている銘柄のトレンドをチェックする。

そして、これが1番重要だが、自分で作成したシステムトレードツールにアクセス。
今日取引の機会が来そうな銘柄をピックアップし、指値注文を入れておく。
ここまで15分。毎日繰り返すうちに慣れてしまった。
朝食は取らない。眠くなるから。

最後にTwitterにアクセスして「むくり」と打つ。
会ったことも無いトレーダー仲間から「おはよー」と返ってくる。
リプライせずに「起きたようだ」とツイートしたものがタイムラインに流れてくる。

そして9時になるまではYahoo!ニュース見たり、
テレビを見ながらウォッチしている銘柄の気配値を眺めている。

ベンチャーが大企業になるとなぜ元いた人が辞めていくのか

貞友が転職したと聞いて飲みに行った。
確か5人ぐらいのベンチャーに入社してバリバリやってたはずだ。
その会社は今では数百人の社員がいる会社になっており、
同じ業界では頻繁に話題になっていた。
貞友はまたベンチャーに転職していた。

貞友は言う。
ベンチャー気質を保ちながら大企業になるのは無理だと。
ベンチャーと大企業は性格の違うものだと。
そしてベンチャーで働いていた人は
自分がすべてを掌握して素早いレスポンスを楽しみながら仕事をするのが好きなので、
大企業流の仕事はそもそも向かないと。

だから企業の成長に合わせて社員も働き方を変えて…というのは無理なのだ。
ベンチャー的働き方が好きなやつは、結局そういうのが好きだし、
大企業的働き方が好きなやつは、結局そういうのが好きなのだ。
だから大企業になったベンチャー企業から、元いた人が辞めていくのは、当たり前のことで、
むしろ大企業になった証拠みたいなもんなんだ、と。

貞友は「ということで自分はベンチャー企業じゃないと楽しめないタイプってことだ」と言ってニカっと笑ってた。