宝くじ当てた。会社辞めた。そして。
3年前に退職した阿部さんがこの12月から復職してきた。
阿部さんは仕事ができるチームのリーダーだったので、
前から「うちに戻らないか」と何度も部長に誘われていた。
阿部さんが辞めた理由は表向きフリーランスになるからという話だったけど、
実は宝くじで3億だか4億だか当てたからなのだ。
席が隣で何かと仲が良かった私は、
阿部さんが辞める前日の晩に、そう教えてもらった。
以来、阿部さんは海外を回ったり、
高そうなホテルに止まったり、高級車を買ったり、
楽しそうな写真をFacebookにあげていた。
私も海外に行きたいと思う方だから、よく、阿部さんの写真をうらやましく眺めていた。
阿部さんが復職した翌日の晩、
歓迎パーティってことで飲みに行った。サシだったけど。
うすうす思っていたことを聞いた。
復職したのは宝くじで当てたお金を使い果たしたんですかと。
「まあ、大部分は使ったけど」と阿部さんは言った。
「それでも、まだまだ無職ではいられるぐらいは残してあるよ」と。
1分ぐらい無言になって、残り一切れになった白子ポン酢を食べ、
日本酒を飲み、店の壁を見つめてた。
「虚しくなっちゃったんだよな。ふと 」
手酌でお猪口に酒をつぎ、
「会社でぎゃーぎゃー言いながら働いていた頃をさ、悪くなかったな、あれ。って思っちまったんだよな」
といって、クイッと飲んでた。
阿部さんは、力なく笑っていた。
私は、やはり海外に行きたいと思っている。