成功を願って褒め称え、失敗を祈って妬む

忘年会シーズン、以前一緒のプロジェクトだったメンバーで飲むことになった。
6人で集まったが、そのうちの4人、荒金、百瀬、富永、林は会社を辞めている。
今のご時世なのか、4人とも転職ではなく、起業、あるいはフリーで仕事をしているようだ。

フリーなんて大変だと散々ネットで読んできた。
会社員のときの3倍稼がないといけないとか、
自由な時間なんてないとか、
自分1人だから病気にもなれないとか。

起業なんて大変だと、これもネットで読んできた。
何年か後に残っているのなんて10分の1だけだとか、
最初の何年かは社長の給料は無いだとか、
やりたいことやりたいから起業するのに、金稼ぎに奔走する羽目になるとか。

話を聞くと、聞いていた話とちょっと違う。
もともとエース級の人たちだったにはだったが、
仕事依頼が多すぎて手が回らないのが悩みのたねだとか、
最近話題になった新サービスの開発に関わっていて、それが良い条件だとか、
時間は無いけどお金は相当自由になったとか景気がいい話ばかりだ。

同じプロジェクトで苦楽を共にした人たちが
旅立ち、そして裸一貫で勝負している状況で、
それが順調に行っていると聞けば、やはり嬉しいし、
もっともっとうまく言って欲しいと思う。
「やったじゃん」「さすが」「がんばれー」と褒め称える。

しかし一方で、
自分も並の人間なんだろうか、
「聞いていた話通り」になっていない彼らが、
「聞いていた話通り」になってほしいと思う自分に気がつくのだ。

言ってもうまくいっているのは今だけなんじゃないか、
来年はどうなるかわからないぞ、
起業するなんてそんなに甘いもんじゃないでしょ、
フリーで好き勝手やっているようで、結局時給で見たら会社員の方が得だったら面白いのに。
なんて、なんて。

 

飲み会参加者のうち近藤だけは自分と同じく辞めることなく同じ会社で働いている。
近藤と帰り道が一緒になり、「締めのラーメン食べません?」と言われ、
2人でラーメン屋に行った。

4人の話になり「あいつらすげーな」ともちあげてみた。
近藤は自分と立場が同じだからと思ってしまったのか、
妬んでしまっていること、ちょっとぐらい失敗すればいいのにと思っていることを話した。
もちろんオブラートにオブラートを重ねて包んで。

「いやー、ここだけの話、実は自分も来月辞めるんですよ」と近藤が言う。
箸が止まる。
「百瀬の会社に誘われてて」
そういやあいつ、さっき「営業はめどがついたからデザイナー欲しいんだよな」って言ってたっけ。
近藤は営業だ。

近藤は楽しそうに、ここ最近の自分の話をし始める。
百瀬から誘われたことも嬉しかったみたいだ。
「やったじゃん」「さすが」「がんばれー」と褒め称える。
自分は最後の1人になってしまった。
近藤からは何も言われなかった。

 

みんな新しい道を歩き始め、ちょっと連絡を取っていなかった間にうまくいき始めていた。
すごいなと思う。
うまくいかないでくれと思う。
自分が間違っていることは、よくわかっている。